渡は今、苦しい。
きっと、痛くて立っていられないほどだろう。

「僕、合宿切り上げて帰ろうか?」

僕が帰って何になるというのだろう。
それでも今、渡をひとりぼっちであの街に置いておきたくなかった。
渡さえよければ、もう一度見舞いくらいは付き合えるかもしれない。ふたりで深空に呼びかけて、何か現状が変わるかはわからない。でも、僕もじっとしていられない気持ちになった。

「いいよ。恒は合宿楽しんでこい。そうだ、明後日、上野まで迎えに行ってやるよ」

その後、僕たちは少し違う話をして電話を切った。

僕は空っぽの駐車場の真ん中に腰を下ろし、空を見上げた。
ベガ、アルタイル、デネブ。
じっと見つめ続けているうち目が痛くなった。

何かが終わる感触が携帯電話の回線を通じ、ぼんやりと伝わってきた。

僕はアスファルトに横たわり、しばらくそうしていた。アスファルトは日焼けした匂いがした。