三泊四日の合宿の二日目の晩に渡から電話がきた。
帰省中、僕たちは幾度か携帯で電話をしたかれど、いつも僕からかけるばかりで渡からの着信はめずらしかった。

「よう、長野はどうだ」

山の中は電波が悪く、渡の声はぶつぶつ途切れた。僕は仲間の輪から抜け、電波の良い所を探して歩く。
後ろから仲間の囃す声が聞こえた。

「白井ィ。彼女から電話かー?」

僕は片手をあげて、ごまかす。きっと仲間は僕が可愛い彼女と電話していると誤解するだろう。それはそれで愉快だ。

開けた広い駐車場でようやく電波状況が良くなる。

「明後日そっちに帰るよ」

僕が言うと「そうか」とかすかな返事が返ってきた。それからいつも通りの世間話をして、ややした頃、渡はぽつんと言った。

「深空、そろそろ駄目らしい」

あまりに簡単にさりげなく言うので聞き流してしまうところだった。その言葉の意味を理解して聞き返す。

「深空さん、具合悪いのか」

「自発呼吸できなくなった。心臓も弱ってる」

渡は小さな声で答えた。渡の母親から、僕に連絡は入っていない。
そうなると、渡は病室を訪れてその情報を知ったのだろうか。
それとも、母親から連絡が入ったのだろうか。そうでなければ詳しい病状を知ることはできないだろう。