「こんにちは。ぼく、押し売りにきました『りゅう』です」

 女の子が、朝から忙しいお母様に代わって扉を開けて応対したら、目の前には小さな男の子がいました。
 
 黒檀のような真っ黒な髪はおかっぱに切り揃え、目がくりくりした可愛らしい男の子です。
 
 女の子は「私と同じ位かしら?」と思いながら、その子が言った言葉に耳元に垂らした艶やかな黒髪を揺らし、首を傾げます。

「『押し売り』? 『りゅう』? って、なあに?」
 
 女の子にとって『押し売り』も『りゅう』も、初めて耳にする言葉だったからです。

 そうしたら男の子も一緒に首を傾げて、

「うんとね……『押し売り』は分からない。でも、『りゅう』は知ってるよ。ぼくなの。ぼくが『りゅう』なの」
と、また言いました。

「『りゅう』?」

「うん! 『りゅう』! ねえ、押し売りにきたの!」

「『りゅう』ってなあに? ニャンコちゃんや、ワンコちゃんと一緒? それとも果物? お野菜?」
 
 女の子は、それが何なのか想像できません。
 
 それに『押し売り』も初めて聞いたから一度に二つも分からない言葉を聞いて、頭の中がごちゃごちゃになっていたのです。

「『りゅう』知らないの? 」

「うん!」

「ちょっと待ってね。元に戻るから!」

 男の子はばんざいして、ぐい、って空に向かって背伸びをしました。
 
 そしたら
 
 ぼん、
 
 って音がして、男の子が真っ白なモヤモヤに包まれて――
 
 緑色の長い身体をした宙を浮く獣が現れたのです。
 
 ギョロっとしたお目めに小さなお髭が付いていて、四本の短い小さな足がついています。
 
 小さな獣は、お髭としっぽを揺らし宙を浮きながら、

 「ぼく、『りゅう』なの! 押し売りにきたの! おねがいします!」



「おかーさまーーーーー! ウナギが! 緑色の変なウナギが押し売りに来たーーー!!」





「……ぼく、『りゅう』なの……」




『りゅう』に戻った男の子はショボンと尻尾を垂らしました。