森の中に入り込んでいきそうだった郁美をどうにか建物へと連れ戻しかが、あたしも気持ちは郁美と同じだった。


できればこんな建物にはいたくない。


「大丈夫か?」


建物に戻ると健が飲み物を用意してくれて、弘明も部屋から出てきていた。


あたしは郁美を自分の隣に座らせて、麦茶をひと口飲んだ。


「健から一通りの話は聞いた」


弘明がそう言った。


弘明の耳には包帯が綺麗に巻かれている。


きっと伶香がやったんだろう。


「嫌な予感が的中したんだな」


弘明がそう言い、面々を見回した。


あたしは何も言わなかった。


「でも、今はとにかく自分たちのためにできる事をしようって事になったんだ」


そう言ったのは健だった。


「自分たちのためにできる事?」


あたしは聞き返す。


「あぁ。食欲があればちゃんと食べる事、食欲がなくても、飲み物くらいはちゃんと飲むこと。最低限の栄養だけでもしっかりととっておくんだ」


「そうすれば、走らないといけない状況になった時に走れるし、考えきゃいけない状況になったときにちゃんと考える事ができる」


健の後を弘明が引き継いでいった。


食べる事、飲むこと。


そんな当たり前の事を言っているだけなのに、やけに納得してしまった。