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弘明が1人で部屋に入っている間、あたしたちは部屋の前で弘明が出て来るのを待っていた。


ドアを開けて様子を見ておこうと思ったけれど、健がそれを止めた。


ドアを開けているだけで体に影響があるかもしれないからと、念を入れたようだ。


「ねぇ健。変な感じって、どんな感じなの?」


さっき健と同じように部屋に入ったけれど、あたしはなにも異変は感じなかった。


「良い言い方だと、自分に素直になれるような、懐かしい事を思い出すような感じだな。悪い言い方だと、自分の欲望を制御できなくなるような感覚」


健の言葉に伶香が軽く身震いをした。


昨日トシが言っていた通りだ。


健が嘘をつくとは思えないけれど、もしそれが本当であればこの部屋は一体なんなのだろう?


ただの宿泊施設ではないことは、もう明白だった。


「もう1つ気になる事があるよね」


そう言ったのは郁美だった。


郁美は鍵のかかったドアの前に立ちそのドアノブを軽く回した。


来たときと動揺、動かない。


ドアの横には何勝番号を入力する画面がある。


「この部屋、なんなんだろうね」


誰ともなく、郁美がそう言った。


「わからない」


伶香がそう返事をした。


「暗証番号とかも、心当たりはないよね?」


「あるわけないじゃん」


「建物の中に数字が隠されているとかさ」


「昨日階段を探している時に色々調べたけれど、なかったよ」


伶香がそう言い、郁美が「そっか」と、ため息を吐き出した。


この部屋が開けば何かがわかるのだろうか?


そう思うけれど、開かないのだから部屋の意味もわかるわけがなかった。


結局、振り出しだ。


そう思ったときだった。


突き当りの部屋のドアが開き、フラフラと弘明が出て来たのだ。


手にはナイロン袋。


すべての液体を詰め込んだのか、その袋はパンパンになっている。