「……起きてる」


その返事にホッと胸をなで下ろした。


このまま何も話せないと、モヤモヤとした気持ちのまま救助を待つことになる。


「なにかあった?」


「別に、なにもない」


そっけない返事にあたしは泣きそうになってしまった。


どうして話してくれないんだろう。


こうなる前はとても仲が良くて、親友だと思っていたのに。


それはあたしだけだったんだろうかと、胸が痛くなる。


鼻をすすると、郁美が寝返りを打ってこちらを見た。


「泣いてるの?」


「……別に」


あたしは郁美に言われた通りの言葉を返した。


郁美はため息を吐き出して仰向けになり、天井を見上げた。


「あたしは健の事が好きだった」


突然郁美がそう言って来たので、あたしは返事に詰まって黙り込んでしまった。


郁美は健の事が好き。


驚くことじゃなかった。


ずっと前から、あたしはその事に気が付いていたんだから。


それでもあたしは郁美に健を譲る気はなかった。


選ぶのは健だし、自分の気持ちにも嘘をつきたくなかったからだ。


「だから今、あたしは明日花の事を無視してるの」


そう言われて、あたしは少しだけ目を見開いた。


これほど堂々と言われては、何も言い返す事ができなかった。


悔しさや悲しさをあたしにぶつけているのだ。


「もうしばらくは、このままでいさせて」


郁美はそう言うと、寝返りをうってあたしに背中を向けたのだった。