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ついに小道がなくなった時、健が「まじかよ」と、呟いた。


周囲は森で真夏だと言うのに少し肌寒さまで感じた。


「どうしたの?」


そう聞くと、健が少し体をずらしてあたしに前方が見えるようにしてくれた。


小道が途切れたその向こうには、大きな湖……いや、沼があったのだ。


それは下ってる途中に見たのと同じような大きさで、とても超えていくことはできなさそうだ。


健が枝を持った沼の深さを測った。


1メートル以上ある枝がズブズブとどこまでも水の中へ沈んでいく。


「入れないな」


「上にも下にも行けないってこと?」


そう聞くと、健は視線を森の奥へと向けた。


「もしかすると、森の奥にまで沼が続いているのかもな」


「そんな……それじゃここから抜け出す事は出来ないってこと?」


「その可能性も少なくない。もしかしたらこの沼はあの建物を取り囲むように掘られているのかもしれないな」


健の言葉に背筋が冷たくなるのを感じた。


あたしたちをここへ連れて来た犯人が、この沼まで準備していたとしたら?


それはとても恐ろしい執念だと感じた。


「戻ろうよ」


郁美が呟くようにそう言った。


振り返ると、とても疲れた顔をしている郁美がいた。


「そ、そうだね。小道がふさがれてるんじゃどうしようもないもんね」


あたしはそう言い、郁美の肩を抱くようにしてきた道を戻り始めたのだった。