「こんな事になるなら、もっと沢山遊んでいればよかったよね」


あたしは郁美に話しかけた。


少しだけ、声が震える。


「もっと喧嘩して、もっと泣いて、もっと笑って。そんな風に距離をどんどん縮めてさ、それで大人になってからもずっと一緒にいられるような、そんな友達になってたらさぁ……」


言いながら、どんどん涙が頬を伝って落ちていく。


今更郁美との関係をどうこう言っても、もうすべてが手遅れだ。


それでも、あたしは明るい未来を語り続けた。


大人になったあたしたちは、きっと姉妹に間違われるだろう。


ずっと一緒にいれば顔も似て来るっていうし、服やメークも似せて行けば本当の姉妹になれちゃったりしてね。


「ねぇ……返事してよ郁美」


あたしは郁美の顔を両手で包み込んだ。


暖かかった郁美の体は見る見るうちに冷たく、そして固くなっていく。


それはもう郁美が生きていないと言う事を証明していた。


「こんなに……こんなに楽しい未来がまってるんだよ! あたしたち、ずっと一緒にいればきっと幸せになれるって! 健の事がほしければあげるよ! だからさぁ、目を覚ましてよ!!」


失ってから大きすぎる郁美の存在に気が付くなんて、あたしは本当にバカなのかもしれない。


この建物に監禁されて、トシの死を目の当たりにしてからはずっと死を意識してきたはずだった。


それなのに、まだこんなに後悔が残っているなんて……。


「明日花、大丈夫か?」


あたしの声を聞きつけて、健が部屋に入って来た。


健はあたしの肩を優しく抱いて、そっと郁美から引き離した。


「そんなに泣いてちゃ、郁美が心配して天国に行けないだろ」


「だって……だって……!!」


もう、まともに言葉にすらできない。


ただの我儘な子供と同じだった。


「行こう、明日花」


健に支えられるようにして、あたしは郁美の部屋を出たのだった……。