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郁美を待っている間に、弘明についていた伶香が戻って来た。


その目は赤くなっていて、泣いたのだと言う事がわかった。


あたしも、健があんなふうに部屋の中で気絶してしまったらと考えると、とても怖くなった。


「弘明は大丈夫か?」


健が聞くと伶香は「うん」と、頷いた。


やっぱり涙声になっている。


「そろそろ3分だな」


健に言われて「郁美! 時間だよ!」と、ドアへ向けて声をかけた。


「え? もう?」


郁美のそんな声が聞こえてきてドアが開いた。


郁美は足元はしっかりしていて、だけど困ったような表情を浮かべている。


「どうだった?」


そう聞くと「懐かしい気持ちになってきたところで時間になっちゃった」と、眉を下げて言った。


「そうなんだ。やっぱり個人差が大きいみたいだね」


あたしはそう言い、郁美の肩を叩いた。


「あたし、もう少し入ってようか?」


何も思い出さなかったことが申し訳ないのか、郁美がそんな事を言い出した。


「ダメだよ郁美」


「でも……」


「大丈夫だって、あたしと伶香が何かを思い出すかもしれないんだから。郁美は待ってて」


そう言うと、ようやく郁美は納得したように頷いたのだった。