だけど、そんな大切な事を隠されていたと言う事は、少なからずショックだった。


「なんで言わないんだよ」


健が言う。


「知っていたらあの部屋には入らなかっただろう?」


「そんな事はない!」


健は否定するけれど、他のみんながどうかはわからなかった。


弘明の聴覚が失われてしまった事実を知ってしまえば、部屋へ入る事に更なる抵抗が会った事は確実だ。


「俺は不安をあおるのも、1人に問題を押し付けるのも嫌だったんだ」


「1人って、どういう意味だよ」


「俺の聴覚が失われた事を知れば、きっとみんなあの部屋に入る事を拒む。その時お前ならどうするか、考えたんだ」


「俺なら……?」


健が首を傾げた。


弘明は大きく頷く。


「きっとお前なら、1人であの部屋に入ってすべてを解決に導こうとする」


「それは……」


健は否定しかけて、言葉を切った。


「あたしも、健ならそうすると思う」


あたしはそう言った。


「あたしも」


郁美がすぐに賛同してくれた。


「健はそういう人だよね」


「うん」


あたしと郁美は目を見交わせて軽く笑った。


「なんだよお前ら……」


健は怒る気持ちを失ったのか、あたしたちにそっぽを向いてしまった。


「明日で、全部終わりにしよう」


弘明が静かな声で、だけど力強くそう言ったのだった。