しかし、今の郁美にはそんな笑顔も通じなかった。


「なにヘラヘラ笑ってんだよ! 人の事利用しやがって!!」


郁美はそう怒鳴り、椅子を壁に向けて投げつけた。


ガンッ! と大きな音がして伶香が小さく悲鳴を上げた。


「利用なんて……っ!」


否定しようとしたのに、言葉が途中で途切れてしまった。


ついさっき部屋の中で感じたことを思い出す。


あたしは確かに、郁美を利用していた。


自分より立場の劣る郁美と一緒にいる事で、有利な立場を作っていた。


「言い返せないんだろうが!!」


郁美があたしを見下ろしてそう言った。


「散々バカにしてコケにしておいて、健まで奪って……!」


郁美はそう言うと、急に力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。


次から次へと涙があふれ出している。


「あたしだってずっと好きだったのに! お前なんかにとられるなんて!!」


拳を何度も床に叩きつける。


「あー」とも「うー」とも聞こえる唸り声を上げて泣き続ける郁美。


次第に、視界が歪んでいくのがわかった。


郁美はこれほどまで我慢していたんだ。


あたしと一緒にいる事を、ずっとずっと苦痛に感じていたんだ。


そんなの、当たり前だった。


だってあたしが郁美を利用していたんだから。