意識はハッキリしているのに、体が思うように動かない。


健がすぐにあたしの体を支えてくれた。


その手の感覚に体の芯がゾクリと熱くなるのを感じた。


この人にもっと触れてほしい。


そんな気持ちがせりあがって来るのがわかった。


健に連れられて外へ出ると、心配そうな表情をしている伶香と視線がぶつかった。


途端に、嬉しい感情に襲われる。


まるで、子供が大好きな友達を偶然街で見つけた時のような感覚。


「伶香!」


「明日花、大丈夫?」


「大丈夫……だと思う」


あたしは自分の状態が把握できなくて、曖昧にそう言った。


少なくても体が溶けたりはしていなさそうだ。


「少し座って休めよ」


健に言われて、あたしは壁に寄りかかるようにして座った。


気持が落ち着いてくるのがわかる。


「次は誰?」


郁美がそう言い、あたしはその声に顔をしかめた。


部屋の中で感じた黒い感情がまた出てきてしまいそうで、自分の手をギュッと握りしめた。


「あたしが行く」


伶香が決心したようにそう言った。


その表情はとても不安そうだったけれど、後まわしにしても仕方がないと思ったのだろう。


「無理するなよ」


弘明が伶香に声をかける。


「わかってる。なにかあったら、すぐに助けてね」


伶香はそう言うと、部屋の中へと入って行ったのだった。