「ここから出てどうする」

 檻ごしの質問に彼女は笑って返した。

 「運命ですから」

 今度の彼女は声が少し高かった。

 手入れのされていない荒れた姿を見れば、神は発狂するかもしれない。

 ・・・それはないか。

 天上の神は全てを見透かすお方。今の彼女の運命すら見ていることだろう。

 受け入れられた運命に歯噛みし、アイルは柵越しに彼女を拘束する鎖に触れた。

 音を立てて外れる鎖と、こじ開けられた様な柵に彼女が目を見開く。

 「今、俺達一帯の時間をとめてある。この場から逃げ出しあいつを探せばいい」

 「…すごいですね」

 でも、と彼女は動きを止めて振り返った。

 「…他の方も逃がしてあげられませんか?」

 優しい女だ、どこまでも。

 「だめだ。これはお前だけに向けられた特別な神の加護。他の人間に慈悲はない」

 残酷な言葉だと思った。

 そう伝えろと言ったのは神様だった。

 彼女がいかに特別なのかを、知らしめたいだけのようにも聞こえるが。