彼が私のほうを見ていないので、私はやっと彼を見ることが出来た。

男の人の割には、月光が鈍く反射するほど、白い肌を持っていた。


彼は恥ずかしそうに顔を背けた後、口元を少し緩ませ、夜空を見上げた。

彼の白い肌が、月光を真に受けて、より光った。



「俺、歌手になるのが夢なんだ。シンガーソングライター。それで、曲を書いてる」


彼はそう言い終わると、小さく弾みをつけて、ブランコから立ち上がった。

それでもギターは大切に抱えられていた。


私はあまり歌には興味が無かったので、いまいちどういう反応をしていいのか分からなかった。

へえ、と言うとなんだか愛想が悪いし、すごいね、と言うのも何か違う。


とりあえず、そうなんだ、と相槌を打った。


彼はブランコの周りにある柵に腰を掛けた。

私の斜め前だ。


さっきと同じように、ギターは膝の間に挟まれていた。



「どうして、一人が嫌いなの?寂しいから?」


彼はまた、私を真っ直ぐに見た。

私はすぐに視線を地面に落とした。

しかし、その目は全く興味本位な目ではなく、心配するような目だったので、私は自然と答えることが出来た。



「ずっと一人だったから」


私は少しだけ視線を上げて、彼の顔を窺った。

彼はにっこりと微笑んでいた。

不安な人を安心させるような、そんな笑顔だった。





そのとき初めて目が合った。


「たまたま公園で行き会っただけだけど、俺は君のこと置き去りにしたりしないよ」








そう。確かに彼は、あの時そう言ったのだ。

彼はその約束を破った。私を残して、旅立った。


彼のことだけは信じていたのに、彼は私を裏切った。