中3の夏、親に
俺はピアニストにならない。


と断言し、
ピアノが嫌いになったと嘘をついた。


すると家の親は
俺をピアニストにするために


育ててきたから
鬼の形相で怒って怒鳴って


その後の両親との関係は
前よりももっと冷めた。


会話なんて無いし。
そもそも、両親は家に帰ってこないし、


世界的に有名なピアニストは
世界中を旅してピアノを弾いてる。


だから、中3の夏から
今まで親と言葉を交わしていない。


それで、俺が断言したおかげで
両親がいる時はピアノを弾けない。


逆に親に頼らずに
何かを目指すのは初めてで


正直不安の方が大きいけれど
毎日がキラキラ輝いている。


そんな不安な俺の演奏に対して
彼女はいつも


「あなたの演奏は素晴らしいね!
あなたのピアノは勇気をくれる。」


っていつも励ましてくれる。
そんな彼女の言葉にいつも支えられている。


最初はそうだった。
支えてくれる彼女に感謝の気持ちで一杯で


お礼を言いたい時も何度もあった。
けれど最近は彼女の
ちょっとした言動でさえもドキドキする。


ある日、俺は
ラヴェルの『ラ・メール・ロア』
の第5曲妖精の園を弾いてる時に


ずっと彼女のことを脳裏に
浮かべながら弾いていた。


それで、俺は彼女に
恋してるんだと自覚した。
でも、俺は彼女とは釣り合わない


天と地の差があると思ってた。
だから、これ以上気持ちが大きくなる前に


彼女に俺みたいな地味なダメ男が
弾いてる事をバラせばもう来ないと思って


このドアを開けようと
心に決めてからもう10日目…。


今日はモーツァルトの
「2台のためのピアノソナタ」


を弾き終わってから
俺はドアの前に立った。


彼女はいつも通り感想を一言、言った。
俺は、もうどうにでもなれ!


と思ってドアを開けた。