その後、薄々勘づいていた事を
坂内さんに聞いてみた。


「俺さ、さっきのピアノソナタ。
連盤で弾くのすげぇ好きなんだけど
一緒に弾かねぇ?」


って言った。
坂内さんは弾ける人だと
前々から思ってた。


なんで隠してるかはいつか聞けばいいけど
今は、弾きたいけど弾けない


みたいな顔してる坂内さんに
ピアノの楽しさを
また分かってもらいたかった。


坂内さんは
「私が弾けるの知ってたんだね!
…自信…ないけど………い…いよ。」


ってほんとに自信なさそうに言った。


弾き始めると坂内さんは
楽譜がないのに弾いていて
俺はやっぱりと思った。


でも、弾いてる時の顔は
どこか辛そうで苦しそうだった。


音も少し重くて弾きづらそうだった。


だから、俺が楽しい音を奏でて
たまに坂内さんの方を
見たりして演奏していた。


そして、目が合うと
少し微笑んでみた。


すると坂内さんの音も
どんどん軽いタッチで
明るい音になっていって


引き終わった頃には
坂内さんは俺のように
ピアノにひきこまれていた。


弾き終わると俺はいつもみたいに
夢から覚めたようにハッとした。


坂内さんの方を見てみると
涙がポロポロと流れていて


俺は駆け寄った。
大丈夫?どうしたの?
って動揺しつつ聞いてみると


もっと泣いてしまって
オレは思い切って坂内さんのことを


ギュッと抱きしめた。
坂内さんは泣きながら


「ありがとう。ありがとう」
って何度も何度も言った。


そして、
「今は言いたくないけど、いつか、いつか、言うから待ってて欲しい。」


って相変わらず泣きながら言った。



俺はこの子がピアノを弾けなかった理由を
いつか教えてくれるまで待っていよう
と心から思った。


そして、俺の腕の中で泣いてる彼女を
しっかり守っていくと心に誓った。