ふたりだけのアクアリウム



なんだ、冴えない男じゃん。

そう、ヒロの顔には書いてあった。
上から目線の彼らしい分かりやすい顔。


いたたまれない気持ちになりながら、沖田さんに視線を送る。
彼は至って普通に、ヒロからの視線を受けつつも平然としていた。

そして、抑揚のない声で沖田さんが「あの」と続けた。


「この間、奥さんがここへ来ましたよ」

「━━━━━は?」


ぶしつけに話し出した沖田さんの言葉で、ヒロが不審そうに眉を寄せる。
彼の奥さんが私のアパートまで探りを入れに来たことは知らないらしい。

淡々と沖田さんはしゃべる。


「つまり、もうここは疑われてるということです。もしかしたら今夜、また奥さんが訪ねてきたりして……」

「マジかよ。あいつほんと粘着質だからな」

「ビジネスホテルの方がいいんじゃないですか。あなたお金もたくさんあるみたいだし」


にっこり微笑んだ沖田さんを、ヒロは少しだけ機嫌が悪そうな顔でじろりと睨んだ。

私はというと、ちょっとだけ驚いていた。


沖田さんもイヤミとか言うんだ、と。


ぼんやりそんなことを思っていると、私の身を守るように沖田さんが一歩踏み出し、玄関に居残るヒロにいつもよりもハッキリとした口調で


「約束してくれませんか?」


と言った。


「は?約束?」

「もう二度とここには来ないって」

「………………ま、彼氏がいるんならマズいだろうな」

「そういうことです。今すぐ帰ってもらえませんか」


フリーならまだしも新しい恋人がいるとなると、さすがのヒロもこれ以上強くは言えないらしい。
……というか、私は本当はフリーなのだけれど。

この場面では絶対に明かしてはならないことだというのだけは分かっているので、敢えて押し黙った。