ふたりだけのアクアリウム



ドクン、と変な音が心臓から聞こえた。


「そ、それってどういう……」


いきなり沖田さんの口から思わぬ言葉が出てきたので、深読みした方がいいのか、それとも深い意味なんてないのか、頭が回らなくなる。
意味を問いただしたいのに、私は口をパクパクさせるだけ。

まるで熱帯魚みたいに。


それまで彼の仕事のことを追求していたはずなのに、もはや吹っ飛んでしまい。

狭い部屋にふたりきりで身を寄せ合っているというシチュエーションに気づいて、体が強ばった。


そうだ、話題を変えよう。


「ご、ご飯っ……何食べたいですか?」


手料理を食べたいって言われてたんだから、リクエストでも聞いておこう。
我ながらいい感じに話を逸らしたと思っていたら、沖田さんがまたしても予想外の答えを口にした。


「手料理はいいや。お礼はキスにする」


ごほごほと盛大な咳が出た。
今、この人なんて言った?
失礼だけど、顔からは想像もつかないようなセリフを言ったような。


顔を真っ赤にしてカチンコチンに固まっているのをいいことに、沖田さんの顔が私の顔へと近づいてきた。

身を縮こませていると、これ以上無いくらいの至近距離で彼が囁いた。


「どうする?」

「どっ……どうするって……」


仕事の話はどこに行ったの!?
流れが違うよ沖田さん!って訴えたい。


コロコロ変わる部屋の空気に戸惑っていたら、唐突に『ピンポーーーン』という無機質な音が部屋に鳴り響いた。


ビックリして目を開いて気がつく。
私、どうやら無意識に目をつぶっていたらしい。
どうぞキスしてくださいと言わんばかりに。


ひぃぃぃ、と脳内で悶絶していると沖田さんが冷静に玄関の方を指差した。


「出なくていいの?」


お尻を床についたままジリジリと後退し、「出ますっ」と言い捨ててリビングを飛び出した。

心臓はバクバクし続けていた。