ふたりだけのアクアリウム



「人事とか部長とか専務とか、なんなら社長に直談判して係長の不正を訴えてみたらどうですか?もしかしたら今までのことも全部調べてくれるかもしれないじゃないですか」

「綱本係長は人望が厚いから。僕の言うことなんて誰も信じてはくれないよ」

「でも営業部の人たちは沖田さんがそういう目に遭ってるって知ってるんですよね?協力してもらうとか」

「仕事しづらくなるからみんな協力なんてしてくれない」

「じゃあ私が言います!証言します!」

「係長は根回しをしっかりしてるから、証拠になるものは全部隠滅されてるよ。逸美ちゃんの立場が悪くなっちゃうから、証言なんてしないで」


私がなんと言おうと、沖田さんは首を横にしか振らない。
全部諦めました、って顔に書いてあって、それを見たら切なくなった。


毎日一生懸命歩き回って、頭を下げて相手の顔色をうかがって。
それでやっと手に入れた契約を持っていかれて、どうしてそんなに冷静でいられるんだろう。


私の不満が表に出たところで、ようやく彼がこちらへ視線を向けてきた。
色素の薄い目と、私の目が合う。


「ありがとう。逸美ちゃんは優しいね」


ふにゃりと笑った沖田さんの目から、本心は見えない。

なんでもっとちゃんと自分のことを話してくれないの?
これからもあの係長に悩まされながら仕事をしなくちゃならないのに、そんな風に笑うなんて。

少しだけ、悲しい色が見えた気がした。


「沖田さんは、ずっとこのままでいいって思ってますか?」


お願い、本心を聞かせて。
そう思いながら尋ねたら、彼はしばらく私をまっすぐに見つめた後、ふと微笑んでいた顔に影を落とした。


「このままでもいいと思ってた。少し前までは」

「………………今は?」

「変わりたいって思うようになってきた」


……おお!素敵な変化!!


「何かキッカケがあったんですか?」


首をかしげると、うん、とうなずいた。


「好きな子の前ではかっこつけたいっていう気持ちが芽生えてきたの。逸美ちゃんは嫌でしょ?上司に仕事を取られるような、情けない男」