ふたりだけのアクアリウム



水槽に水を入れて、袋の中で泳がせていた熱帯魚を水槽へ優しく誘導する。
それまで窮屈そうにしていた魚たちが一気に散り散りになった。

ゆっくり濾過器が作動して、小さなモーター音と水音が聞こえてきた。


「おおお〜。なんかすごい!沖田さん、業者さんのような手つきでしたね」


みるみるうちに完成し、見事なアクアリウムが出来上がったので思わず拍手してしまった。
沖田さんが笑っている。


「こっちの営業やった方が成績上がるかもね」

「それは……地雷ですか?」

「━━━━━どうかな」


私の言葉に、彼は動揺を見せることもなく肩をすくめた。


「これでも仕事を辞めたいと思った事は一度も無いんだ。係長ひとりのために辞めるなんてバカげてるし」


ふたり並んで座り、熱帯魚が泳いでいる水槽を眺める。
狭い部屋で、あまりスペースは無い部屋で。

ポツポツと会話する。


「今までに何件の契約を持っていかれたんですか?」

「まぁ、覚えてないくらい」

「……悔しくないんですか?」

「最初は悔しかったような気もするけど、もうその感覚は麻痺しちゃったよ。人間なんでも慣れるっていうか」

「それは、本心ですか?」


私は水槽じゃなくて、沖田さんの横顔をじっと見つめた。
でも、彼と目が合うことは無い。
彼はひたすら水槽を眺めているからだ。


「今日の逸美ちゃんは手厳しいね」


そう言って、困ったように笑った。