ふたりだけのアクアリウム



「僕が前に住んでたアパートと同じくらいの広さかな。1年前に今のところに引っ越したの」


買ってきた設備の箱やパッケージを開けて中身を取り出し、手早く組み立てながら沖田さんがしゃべる。
空の水槽に床砂と石と流木が入れられ、丁寧に水草も配置された。


「レイアウトはこんな感じでいい?」

「レイアウト?そんなのあるんですか?」

「それが水草水槽の醍醐味だよ。これは水槽が小さいから、あまり細かく工夫は出来ないんだけど」

「沖田さんのセンスに任せますっ」


丸投げの私に、彼は文句を言うことはない。
分かった、と流木の位置を微調整したり、石の面を変えてみたり。
私はただただそれを隣で見ているだけ。

それなのに、なんだか楽しい。


「沖田さんが水草水槽を始めたのは、いつ頃からですか?」

「2年前くらいかな。それまではずっとカエルを飼ってたんだけど、死んじゃって」

「カ、カエル……」


ツヤツヤヌメヌメした体表のカエルを思い浮かべて、ごくりと生唾を飲む。
良かった、カエル時代に部屋に行くことにならなくて。
いや、もしも「カエル見に来ない?」って誘われてたら行かなかったろうな。


「それで、たまたま雑誌で水草水槽を特集していたのを見て、生き物じゃないのを育てるのもいいかなぁなんて。やってみたら思った以上にハマったんだけど」

「ネットで調べたら、アクアリウムって言うんですね」

「あぁ、そうだね。魚も水草も、全般をそう言うらしいね」


沖田さんは会話しながらも慣れた手つきで作業を進めていく。
案外男らしい大きな手をしているな、と血管の浮いている腕をこっそり観察。


山口は彼のことを地味だと言っていたけど。
そんなことはない。
ただ物静かなだけだ。


その物静かな性格のせいで、仕事では損をしているのか。