車を走らせて、来た道を戻る。
きっと沖田さんは、水槽のセッティングを終えたらさっさと帰ってしまうだろう。
そう考えたらものすごく寂しくなった。
でも、ただの同僚の私には引き止めることなんて出来るはずもない。
まだ何も始まってない。
私と沖田さんの関係は、ゼロのまま。
始まりの始まりさえ、まだなのだから。
恋愛の入口に立って、沖田さんを目で追ってるだけの私。
「…………手料理」
車を走らせながら、彼がボソリとつぶやく。
すっかり考え事をしていた私は彼のつぶやきを聞き逃し、「え?」と耳をそばだてた。
「今日のお礼。逸美ちゃんの手料理、食べさせて」
「て、て、て、手料理ですか?」
「あ、その反応は困ってるね。じゃあやめる。言ってみただけ」
ふふ、と笑いをこぼした彼は「気にしないでね」と付け加える。
冗談なのか本気なのか、全然読めないんですけど!
冷蔵庫に何が入ってたっけと頭を悩ませる私を乗せて、車はスイスイと道路を走っていった。



