ふたりだけのアクアリウム



シートベルトを外して、足元に置いていたバッグを掴むと沖田さんの方を向いて


「送っていただいてありがとうございました。少し遠回りになっちゃうのに、すみませんでした」


とお礼を伝えた。
彼は気にしないで、とでも言うように微笑んでいる。

この間も送ってもらったし、口先だけじゃなくて何かお礼をした方がいいんじゃないかという思いがよぎる。


「あのー……うちに寄っていきませんか?粗末なものしか作れませんけど、ご飯作りますから」


別にこれといって深い意味を持って言ったわけじゃなかった。
あくまでもお礼のつもりだった。

沖田さんのことだから、「じゃあそうしようかな」なんて言うと思っていたのに。


「簡単に男を家に上げちゃいけないよ」


と、注意されてしまった。


「女の子のひとり暮らしは、気をつけないとね」

「…………もう女の子って言われる歳でもないですけど」

「それに、手料理なんて涙の次に位置するくらいの強力な武器だし」

「え?なんですか?」

「ううん、なんでもない」


彼はモゴモゴ何かを言っていたけど、私にはあまり聞こえなかった。もともとハキハキしゃべる人ではないので余計に。


断られてしまっては押し付けるのも申し訳ないので、ここは引き下がることにした。
ペコリと頭を下げて、車を降りようとした時。

私たちが乗っている車と同様に路肩に停まっている1台の車に気がついた。
黒のセダンタイプの車で、ナンバーにも見覚えがある。


それを見た瞬間、身が凍る感覚を感じた。