ふたりだけのアクアリウム



まだ何も言われていないのに、どうしてか私の心臓がドキドキと音を立て始めた。


━━━━━しまった。うっかり期待しちゃってる。
また「水草水槽、見に来ない?」って言ってもらえるんじゃないかって。

いや、それにしたってこのドキドキって変じゃないか?


「時間……あります」


帰ったって何もすることなんか無いし。
食事を作ってお風呂に入って、ひとりぼっちでベッドで眠るだけ。
そうしていつもベッドの中で、少し前の苦い恋を思い出して虚しくなるっていう、その繰り返し。


それなら、沖田さんの部屋で水槽を眺めていたいかも。


「じゃあ、良かったら家まで送るよ。会社に戻ったら車取ってくるから」


穏やかな声でそう言った沖田さんを、私はパチクリと目を見開いて穴が開くほど見つめてしまった。

そして、気づく。
私はなんという無駄な期待をしていたのだろう、と。


でも、それでも。
断ればいいのに、私は。


「はい……、待ってます」


なに言ってるのよ、と自分自身に問いかけた。

答えは簡単だ。


私は、きっとこの人に癒しを求めているのだ。
彼と話しているとこっちまで穏やかになるし、心が休まる。

そしてまだちょっと掴めない感じも、また興味をそそられる。

奥手かと思いきや、こんな風にあっさり一緒に帰ろうと誘ってきたりして。


これが沖田一路という人のペースなのかもしれない。