ふたりだけのアクアリウム



幸い営業部の皆様は出払っていて、あの閻魔大王のような綱本係長がいないことだけは助かったものの。

山口を軽く睨んで、パパッと画面を消した。


「ちょっとした息抜き。もうっ、製造部のくせに事務所に入り浸りすぎだよ。何しに来たの?」

「なぁなぁ、アクアリウムって何?」

「こっちのことはいいから!」


がさつで面倒くさがり屋の山口には、水草水槽の良さなんて1ミリも理解出来ないだろうし、興味も持たないだろう。

入社当時からやたらと絡んでくるこの男は、製造部に所属しながら仕事の合間を縫っては事務所に出入りし、試作品の余りなどを持ち込んでお茶をすすって帰っていく。


なんてったって顔がそこそこいいので、事務のお姉さま方(半分以上は40代から50代のベテラン事務員でございますが)から気に入られてしまって、「涼ちゃん」なんてあだ名までつけられて可愛がられている。


「今日帰りにメシでも食って帰らないかなーと思ってさ、誘いに来たの」


山口がこうやってみんなの前で食事や飲みに誘ってくるのも、毎度のこと。
かなり仲のいい同期だと周りには認知されているけれど、私からしてみれば悪友みたいな感じ。


「ファミレスなら可」

「なに?金欠なの?」


こらっ、山口め。
茅子さんが心配そうにこっちを見ている!

金曜の夜に結果的に私が飲食代を払ってしまったため、彼女としては申し訳ない思いに駆られてしまいそうだ。


「違うけど、ハンバーグとかナポリタン食べたい気分なの」

「ほんとお子様だな、佐伯って」

「ほっといてよ」

「ま、いいよ。ファミレスでも。じゃあ仕事終わったら外で待ってるからな」


山口は製造部らしい割烹着姿で、これがまた案外似合ってるんだけど、軽やかな足取りで事務所を出ていった。