「あの、すみませんが寄るところがあって……」

「昼間チョコレートくれたでしょ。そのお礼だから」


断ろうとした私の言葉を遮って、沖田さんは歩き出してしまった。
それを急いで追いながら「沖田さーん」と呼びかけてみるけれど、彼は私の話など聞いていない様子。


あのチョコレートは別に沖田さんのために用意していたわけでもないし、むしろそこまでチョコレートが好きなわけでもない私の残り物を押し付けただけのようなものなのに。
なんだか非常に申し訳ない。


「そうだっ。チョコレートがお好きなら、まだありますけどどうですか?」


思い出して、手に持っていた紙袋の中身を彼に見えるように掲げた。
山口と茅子さんに強制的に持ち帰らされたチョコレート菓子が、大量に入っている。

どうしたものかと困っていたところだった。


「佐伯さん、チョコレートは嫌いなの?」

「嫌いではないけど……好きでもなくて」

「それなのにそんなにもらったの?」


自社の試作品であることは、沖田さんだって営業部にいるから承知の上だろう。
素朴な疑問を私に投げかけてきた。

冷静になれば、変だと思うのは当たり前のことだ。
もらったくせに違う誰かにあげようとするなんて、意味不明よね。


だって、チョコレートが好きだと言って食べてくれる人はもういないんだもの。
家に帰っても、ひとりなんだもの。
どんなに待っても、ひとりなんだもの。


答えに詰まっていると、沖田さんが私の手から紙袋を受け取ってくれた。


「佐伯さんの地雷、踏んじゃった。ごめん」

「そ、そんな。地雷なんて全然……」

「僕が全部食べるよ」


沖田さんは何故かいつもよりもハッキリとした口調で宣言するみたいに言って、それから立ち止まって私を見下ろした。