「っ奏」 奏の母親が、そう言って。 奏を、抱きしめたとき。 苦しくて、優しくて、胸がギュウ、と音を立てた。 奏に視線さえ合わせないと言っていた、奏の母親が。 奏の名前を呼んで、抱きしめて。 きっと2人は、大切な何かに気がついた。 お互いにどこかですれ違っていた気持ちが、本音を言い合ったことによって、今ここで、小さく重なった。 嬉しかった。 私は自分のことのように、嬉しかった。 本当に、よかった。