「でもちょっとこれは濡れ過ぎだね・・・・・・・。私、家からタオル持ってくるよ。」
弥生はそう言い残すと、走って家に向かっていった。
オレも一緒に戻ると言いたかったころだが、あいにく車を路駐してる身では、この場から離れることもできず、仕方なく弥生の帰りを待つことにしたのだった。
走っていく弥生の姿が護岸コンクリートを超えて見えなくなると、オレはそこで、じわじわと現実を感じはじめた。
弥生の記憶が戻った―――――――――――――――――――――――
何がきっかけになったのかは分からない。
あの大きな波をかぶったのがよかったのだろうか・・・・・
とにかく、弥生の記憶が戻ったのに間違いない。
気になるのは、記憶をなくしてる間のことを覚えているかどうかだが、
それは、さっきオレが弥生に宣言したように、オレが責任持って記憶を戻した弥生に教えてやるつもりだ。
残る問題は、交通事故の件だろうか。
デリケートな弥生の状況に配慮してもらい、いろいろなことを後まわしにしてもらっているのだから。
オレはとにかく弥生にもう一度細かな確認をしてから、すぐに警察と病院に連絡しなくては・・と思った。
そして、こんなにすぐ記憶が戻るなら、旅行中の親達に連絡がつながらなくて、却ってよかったのかもしれないと思い直していた。
いらぬ心配をかけずにすみそうだったから。
オレは体の細胞のひとつひとつが、”安堵” を刻んでいるようで、心の奥底のまた最奥から、ホッとしていた。