私は、いつもより遅く教室に入った。 「おはよ!杏!」 「棗…おはよ」 いつもどおり飛びついてきた棗に挨拶を返す。 「どうか、した?」 「なにもないよ」 首を横に振って笑ってみせる。 「うそ」 強く言われた。 「うそじゃないよ」 「なら……なら、どうして泣いてるの?」 「泣いてないよ」 「でも、今から泣く」 「……泣かないよ」 迷惑、かけたくないよ… 「…………もういい」 棗は、少し納得がいかないように席に戻った。