金木犀のエチュード──あなたしか見えない

何故これほどまでにと訊ねるアランに、私は淡々と詩月について語った。

アランは両親が共に音楽家という環境にありながら？　と思いつつ、親の影に隠れて正当な評価を得られない──そんな学生もいることを理解したようだった。

私はアランに「『音楽を楽しみなさい、心で弾きなさい』と詩月に教えたいの」と訴えるように言った。

そんな私に、彼はある提案をした。

中学生、思春期の最も繊細な時期の少年に、その提案を勧めることを私は、躊躇したのだが……。

舞台に上がり、緊張でガタガタと震えているようでは演奏家は勤まらない。自信がなければ、思い切りの演奏はできない。聴き手の心を掴むことはできない。感動させることはできない。

それはアランも私も共に音楽を学び、幾つかのコンクールを経験し、自ら実感してきたことだ。