食堂での騒ぎの翌日、昼休み。

詩月くんが廊下を緒方さんと雑談しながら歩いている姿を見かけた。

思っていたよりも元気そうな姿に安心し「良かった」と呟くと、志津子が「何が?」と声を掛けてきた。

「昨日の様子だと、数日は欠席するのかと思っていたけど」

「何だ、周桜くんのこと」

「あんなに……いつも薬を持ち歩いているほど、体が弱いと思わなかったから」

「まあ、色々噂はあるんだけどね。はっきりしたことを知っている人は限られているみたい。でも、あなたが周桜くんのヴァイオリンの先生の孫だったなんて……どうして隠していたの?」

「別に隠していたつもりは──わたしが知っている詩月くんは小学生で、すっごい泣き虫だった頃だし」

志津子はどんぐり眼で、わたしを見つめ押し黙った。