ラ・カンパネッラのピアノ演奏が終わった直後、通気孔から数人の慌てた声が聞こえてきた。

「だから言わんこっちゃない」

はっきりと聞こえた声は、詩月くんを背負って行った理久という人の声だったと思う。

わたしと志津子は急いで、階段で試験会場音楽室のある3階へ下った。

詩月くんが理久という人に抱きかかえられ、保健医が側に付いていた。

「自由曲を弾き終えた直後に倒れるなんてな」

「あんな状態でどんな演奏したんだ?」

「防音になっていて良かったよ。あいつの演奏、『ローレライ』だからな」

「ローレライって、あれだろ!? ギリシャ神話に出てくる半人半鳥の怪物。歌声で船乗りを惑わし、難波させる……」

「そうそう、コンクール荒らしという異名もあるしな」

志津子は「ひどい言われようね」と頬を膨らませた。