金木犀のエチュード──あなたしか見えない

祖母の日記に「アラン」の名が出てくるのも同時期だ。

祖母はこの頃から、詩月くんのことを相談している。

「あの人はずいぶん前から見守っているのね」

詩月くんとアランのヴァイオリン演奏に感じた暖かさと、アランと話した時の心配顔の理由が繋がる。

詩月くんの指使いや指の不調を危惧していたのも頷けた。

翌朝、登校時に正門前で詩月くんの姿を見た。

母親の運転する車から降り、車窓を開けた母親と話しているところだった。

「実技のレッスンもあるから……」

どうやら、迎えはいらないと話しているらしかった。

本当に送迎してもらっていることにショックを受けた。

下足室に向かう途中、志津子に呼び掛けられ、振り返る。

「昨日は驚いたわね。体が弱いというのは本当なのね。あなたっ、タクシーまで拾ってあげて」