「ママ。詩月くん、体がどこか悪いの?」

お風呂上がりで、髪をタオルで渇かしながら母に訊ねる。

「今日、山下公園でヴァイオリン演奏の後、すごく辛そうだった。胸に手を当てて急にふらついて」

母は珈琲カップに伸ばした手を止め、眉を下げた。

弱冠、顔が強張っている。

「あたし、咄嗟に体を支えたの。『大丈夫だ』って言いながら、ちっとも大丈夫そうには見えなくて、しばらく彼の背中を擦って」

母はフウッと長いため息を吐いた。

「お婆ちゃまのお悔やみに来た日は倒れて救急車で運ばれたって聞いたし、翌日から4日も欠席だったんですって。それに彼、家から学校まで毎日お母さんが送迎しているって聞いたの。そんなに体が弱いなんて……」

母は珈琲カップを傾け1口啜り、テーブルにコトリと置いた。