「周桜くんの亡くなった師匠、リリィさんって本当にすごい人だったのね。モルダウにもよく見えていたけれど……お淑やかで優しそうな人だった」

志津子は「あなたを初めて見た時、リリィさんに顔が似ていると思ったんだけど」と、わたしの顔を見る。

「リリィは……わたしの」

言いかけたわたしの言葉を遮り「勘違いだったかも。中味は全く違うし」と付け加えた。

「失礼ね」

リリィがわたしの祖母だいうことは、まだ黙っていようと思う。

メンコンを弾き終えた後、詩月くんは彼を取り囲んだ聞き手のリクエストに応え、次々にヴァイオリンを弾いていく。

演奏するのはクラシックに留まらない。

「すごいでしょう? 周桜くん、リクエストを絶対断らないの」

「休まなくて大丈夫?」

演奏する詩月くんの額には汗が滲み、肩で息をついている。

「ずっと演奏しっぱなし。坂道を上れないくらい体が弱いんでしょ!?」