――僕は泣いてばかり、愚痴ってばかりいました

幼い頃、祖母の家に遊びに来て度々見かけた男の子はヴァイオリンを弾きながら、いつも泣いていた。

――あの男の子は詩月くんだった

遠い記憶が甦った。

「何で泣いているの?」

「……上手く弾けないから」

「どうして?上手に弾けていたわよ」

「リリィが正しい指使いで弾かなきゃダメだって……でもリリィの言う通りに弦を押さえようとすると指が絡まっちゃって……」

「弾き方の決まりなんて、ちゃんと弾けていれば気にしなくても──きれいな音で演奏できていたわよ」

「でも……」

「ねえ、今弾いていた曲。聴かせて、お婆ちゃまがよく弾いている曲」

男の子が躊躇いながらヴァイオリンを弾く姿と、夕日に照らされてヴァイオリンを弾く詩月くんの姿が重なる。