「もっとたくさん、演奏を聴いてほしかった。もっとご指導を乞いたかった。未だ何もご恩を返せていないのに……」

後悔と叶わない悲痛な想いを感じて涙がこみ上げてくる。

「こちらへ」

静かに声を掛けると、潤んだ瞳で頷き会釈する。

仕草の1つ1つに、祖母の凛とした立ち居振る舞いを思い出させる。

彼は祭壇を前にし、数分手を合わせた。

頬に伝う涙で憂いを帯びた横顔が美しかった。

お焼香を済ませ遠慮がちに訊ねた。

「ヴァイオリンを弾いてもいいですか」

「ええ、祖母も喜ぶと思います」

彼は返事を待ち、ヴァイオリンを取り出し調弦を済ませ、ゆっくりと深呼吸した。

颯爽とヴァイオリンを構えた立ち姿まで、祖母に似ていた。

――また「懐かしい土地の思い出」に違いない。どうせ、通り一辺のつまらない演奏を聞かせられるのよ

不機嫌さが顔に出ないよう、愛想笑いする。