わたしは水の守護神像の側に細身のヴァイオリン奏者の姿を見つけ、「あっ」と声が漏れた。

――詩月くん……

祖母の葬儀の翌日以来だった。

男性がつかえながら、奏でる拙い演奏を支え補い奏でるヴァイオリンのしっとりした音色は、葬儀の翌日に聴いた音色とは違っていた。

待ち人来たらずの歌詞がついた曲の哀愁だけではなく、来るはずのない思い人への包みこむような優しさも感じさせる。

母にカフェ・モルダウで「詩月くんが倒れたと聞いた」と話した時、母は驚かなかった。

「詩月くんは体が弱いから」

平然とそれだけ言った。

病み上がりで弾いている演奏とは思えない澄んだヴァイオリンの音色が、連日読み進めている祖母の日記を思い出させる。

同時に祖母の側で、頬に伝う涙を何度も手で拭い、ヴァイオリンを弾いていた男の子の姿が思い浮かんだ。