金木犀のエチュード──あなたしか見えない

「ああ。貢、間崎……音楽科でヴァイオリン教えていた准教授が居ただろ。あの人が付き添って、詩月のおふくろさんに連絡入れてくれたんだと」

「間崎准教授、何であの人が」

「俺が聞きたいよ。リリィさん家から鶴岡八幡宮までアイツ、どうやって行ったのかね。おふくろさんには『楽器店に寄って帰る、20時には帰るから』とメールを送ってきたらしいけど、楽器店とは全く違う方向だろ」

驚きと興味深い話に、出て行きたい気持ちをグッと抑える。

「そうだな。理久、周桜はおふくろさんに本当のことを話してないのか?」

ピアノ演奏に替わり、ヴァイオリン演奏が始まったが、周桜詩月には到底及ばない。

「昨日、いつもここでヴァイオリン演奏を聴いているスカーフ着けた白いネコがJRに乗っているのを見て、後を付けたんだ」

カウンター席から、安坂さんたちに学生が話し掛ける。