金木犀のエチュード──あなたしか見えない

辺りをぐるりと、改めて見る。

「ねえ、音楽科の学生の方が明らかに多くない?」

店内の7割強を音楽科の学生が占めている。

「そう、音楽科同士切磋琢磨しあっているのよ。周桜くん、まだ来ていないわね」

永山さんはグランドピアノの斜め、窓際の席を眺め残念そうに言う。

風鈴が忙しく鳴り、女子と男子が談笑しながらピアノの側に座った。

「相変わらず仲が良いわね。大学オケ次期コンマス安坂さんと毎回、周桜くんの次点の緒方さん」

安坂さんは黒縁眼鏡で見るからに優等生風、緒方さんは色白で目が大きくハッキリした顔立ちのキレイな人だ。

「今日は白いネコ、来ていないのね。周桜くんが居ないからかしら」

緒方さんがピアノを見つめている。

「周桜が休みなのを知っているみたいだな」

「そうね。あのネコ、周桜くんがここに来る時にしか居ないようね」