金木犀のエチュード──あなたしか見えない

150人中、3分の1にさえ届かない自分の成績が恥ずかしかった。

毎回首席の彼には見られたくないと思った。

「ねえ、千住さん。放課後、カフェ・モルダウに行かない?  周桜くん、モルダウのグランドピアノをよく弾いているの」

彼のピアノを聴いてみたいと、2つ返事して教室に戻る。

天才ピアニスト周桜宗月、その息子がどんなピアノ演奏をするのか、考えただけでワクワクした。

授業中は終始、上の空で過ぎて行き放課後、永山さんに急かされカフェ・モルダウに向かった。

扉を開けると風鈴の音が涼やかに鳴り、芳醇でほろ苦い珈琲の香りがふわり、鼻を擽る。

中央にでんとグランドピアノが置かれている。

ピアノの近くの席に座り、店内を見回す。

学生がピアノを弾いているけれど、大して上手くはない。

「ここは学生たちの演奏がBGM代わりなの、音楽科の学生が腕試しをするのよ」