金木犀のエチュード──あなたしか見えない

優しくて温かくて、なのに目頭が熱くなった。

ーーこの弾き方……お婆ちゃまの

詩月くんの弾く「懐かしい土地の思い出」がお婆ちゃまの演奏と重なる。

お婆ちゃまにヴァイオリンを習っていた頃、詩月くんは課題曲を弾き終えた後、毎回指使いが違うと、注意されて泣き出してしまった。

泣き出した詩月くんを宥めるために、お婆ちゃまがいつも弾いていたのが「懐かしい土地の思い出」だった。

今日の詩月くんの演奏は、お婆ちゃまが側にいて直ぐ目の前で弾いていると思うほどに、何度も繰り返し聞いたお婆ちゃまの演奏に似ていた。

全身を包みこむ懐かしい音色に、舞台の上の詩月の姿を何度も見返した。

演奏しているのは確かに詩月くんで、お婆ちゃまではないのに、お婆ちゃまの気配を感じた。

詩月くんにお婆ちゃまが乗り移り、演奏しているのではないか?