金木犀のエチュード──あなたしか見えない

その次に詩月くんの演奏、そして最終奏者の演奏へと続く。

安坂さんは堂々とノーミスで演奏を終えた。

さすが聖諒学園の大学、オーケストラ部次期コンサートマスターだ。

詩月くんはヴァイオリンコンクールは初めての出場で、今回のコンクールではダークホースだ。

予選が始まるまでは誰も詩月くんが本選ファイナルに残るとは思っていなかったに違いない。

ただ街頭で自由気まままに演奏している学生に負けるはずがない。

コンクールに出場したコンテスタントの誰もが、詩月くんに対して敵対心を向けているのか、会場の空気が酷くピリピリして感じる。

安坂さんの次のコンテスタント、優勝最有力候補の演奏が安坂さんを上回るほど完璧な仕上がりで終わった途端、観客が総立ちし、割れんばかりの歓声と拍手が沸き上がった。

女子学生は観客に向かってゆっくり深々と、1礼した。