金木犀のエチュード──あなたしか見えない

「小百合。あなた、ずいぶん激しいのね。わたしも周桜くんをファザコンといったのは確かに許せないけれど」

「どこの誰だか知らないけれど、詩月くんの何が知りたいのかーー絶対に話したくない」

「そうね」

志津子がわたしの肩をポンポンと叩き宥めるように抱きしめてくれた。

男性の姿はこの日の後も、様々な所で見かけた。

半月足らずの間にカフェ・モルダウ、学園内のエントランスや中庭、正門前や裏門、講堂や音楽室etc.……それに詩月くんが街頭演奏をする先々に、男性は現れた。

MHKコンクールの予選が終わり、本選当日。

「やあ、君とはよく会うな」

男性はコンクール会場のみなとみらいホールロビーで、又してもわたしを目敏く見つけ話しかけてきた。

「難なく勝ち上がってきたというか、予選では優勝候補もタジタシだっただろうね」

「当たり前でしょ。お婆ちゃ……祖母の1番弟子なんだから」