母に話すのは少し気恥ずかしかった。

「あの時、やめなければ詩月くんと演奏できるくらいにはなれたのかなって……今さらとは思うんだけど」

母は静かに聞いてくれていた。

「お婆ちゃまのお弟子さんは、わたしがヴァイオリンをやめたこと、あまりよく思っていないでしょうし」

わたしの話すグタグダな話、半ば愚痴のような話に数十分、付き合ってくれた。

「ママ。わたし、詩月くんのお母さんの教室で習ってみようかな。詩月くんがヴァイオリンを始めるきっかけになった、詩月くんのお母さんの元で。もう1度、始めてみたい」

母が「わかったわ」と頷いた、その傍らにいつの間に何処から入ってきたのか、あの白いネコがいた。

生前の祖母が座っていたソファーに、ずっとそこに居たように、わたしたちを見つめていた。