母との話が一段落し、詩月くんのお母さんは退屈そうにしていたわたしの様子に気づいたのか「ごめんなさいね。長話をして」と、微笑んだ。

「あの、詩月くんも教室に顔を出すことがありますか?」

「私の教室にくることはあまりないわね。詩月は今、駅前通りで百合子先生のお弟子さんのレッスンを受けているから。それに、あの子は私の手には負えないわ」

「そう……なんですね。ありがとうございます。少し考えてみます」

わたしは敢えて即答しなかった。

母が探してくれている教室もあるだろうし、詩月くんが来るかどうかを聞いた手前、詩月くん目当てだと思われたくなかった。

詩月くん宅から家に戻ると、母は珈琲を淹れてくれた。

「小百合、詩月くんのお母さんに習ってもいいのよ」

「うん。わたし、詩月くんには敵わないと思ってヴァイオリンをやめたこと、詩月くんに会って、詩月くんを観ていて後悔したの。続けていればって」