母と詩月くんのお母さんの話は数分では終わらず、わたしたちはリビングに通された。

2人はお婆ちゃまのこと、詩月くんのことで話に花を咲かせた。

学校ではポーカーフェイスで知られている詩月くんだ。

詩月くんのお母さんは、母がお婆ちゃまの前では笑ったり苛立ったり泣いたり、感情を露わにしていたと話すと驚いた様子だった。

「あの子……わたしに涙を見せたことがないんです。声を荒らげたことも、反発したこともないんです」

流暢な日本語で淡々と話す詩月くんのお母さん。

その顔はひどく寂しそうだった。

「百合子先生の御悔やみに行った日。あの子、楽器店に寄って帰るとメールしてきたのに……鶴岡八幡宮まで行ったみたいで、何しに行ったのかも話さなくて」

あたしはカフェ・モルダウで、岩舘さんが話していたのを思い出していた。