母がお婆ちゃまの日記を詩月くん宅へ持っていくと聞き、わたしは車の助手席に座った。

幾つもの風呂敷に包んだ10年分の日記は、どのページにも、お婆ちゃまの思いを感じた。

詩月くんはお婆ちゃまが愛弟子への期待と不安を包み隠さず綴った日記を、どんな顔をして読むのだろうと思った。

詩月くんのお母さんは詩月くんによく似た、とても綺麗な人だった。

「小百合ちゃん? 大きくなったわね」

「……お久しぶりです」

覚えてもらえていた、と思うと嬉しさよりも戸惑いと恥ずかしさでいっぱいになる。

「あなたが突然、『ヴァイオリン教室に来なくなった』こと、詩月はとても心配したし、残念がったのよ」

「えっ!?」

「同じ教本を練習している生徒さんが、あなたしかいなかったから、詩月はあなたに負けたくなくて毎回、完璧に弾けるまで練習して通っていたから」