お婆ちゃまが亡くなった。

街を一望できる丘に建つ祖母の家の窓から、海を見ていた。

長年、自宅のヴァイオリン教室で演奏家を育てていた祖母を偲ぶ弔問客が、葬儀の翌日も朝から絶えない。

祖母に弔いと感謝と冥福の祈りを捧げ、演奏をする教え子達や交流のあった人達の奏でる音色は、どれもただ美しいばかりで、心に響かない。

聞こえてくる音色をうんざりしながら聴いていた。

「小百合、詩月くんをお母さんの部屋へ案内して」

母に呼ばれ、客間へ降りる。

彼は喪服に身を包み、ヴァイオリンケースを抱え、肖像画の中で微笑む祖母を見つめ、佇んでいた。

「最後に会った時……桜が咲いていた」

感情を無くした頼りない呟きに思わず、顔を見上げた。

「寂しげな横顔が……消え入りそうで演奏せずにはいられなかった――『懐かしい土地の思い出』を」

肖像画を見つめたまま、淡々と話す声が微かに震えていた。