無愛想天使

何回か私に会いに来ていたから顔は知っていた。その時の私は“顔見知りのおじさんと暮らす”という認識だった。

施設をあとにするという事は隼人との唯一の繋がりであるこの場所を離れるという事で、会わなくなって二年が経っていた。

連れていかれた部屋には、家具はなくて、ただピアノだけがその空間を占めていた。

何にもなくてごめんと謝るおじさんに、別に構わないと言い放ちピアノの前に座り、鍵盤を押した。

ポーン、ポーンとピアノの音だけが部屋に響く。

何か曲を弾くわけでもなく、ただ一つの鍵盤を一定のリズムで押しつづけた。



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